2020年8月12日水曜日

経済と人間の関係について

 最近読んだジョージ・ソロスの本が面白かったので紹介したいと思います.10年ほど前に発表された「ソロスは警告する」という本です.

ジョージ・ソロス,「ソロスは警告する 超バブル崩壊=悪夢のシナリオ」,講談社,2008年

 ソロスの主張は,「市場のさまざまな変数(価格など)は均衡値に向かって収斂する傾向がある」という現在主流の経済学(新古典派経済学)の考え方は偽りであるということです.これは現在主流の経済学では人間は常に合理的な判断をする(ホモ・エコノミクス)と仮定されていますが,実際は必ずしもそうではないからです.ソロスは,人間はホモ・エコノミクスであるという仮定では排除されている,人間の未来への期待やに基づく現実との誤差(バイアス)や現実の理解不足を考慮すべきと主張します.ソロスが投資家としてこれほどの成功を収めたのは,難解な金融工学を駆使したからではありません.彼が「人間理解の名人」だったからです.金融市場の動きを見て,他の投資家がどう動くかを把握する達人です.そして,現実と一般の投資家の現実理解との誤差が大きくなったところで自らの信念に従って投資を行い,市場を出し抜き巨万の富を得ました.
   さて,市場価格などは均衡値に向かって収束するという考え方に対して,経済学者の立場から批判している方がいます.私の一番好きな作家である城山三郎さんの恩師である,山田雄三教授です.

城山三郎,「花失せては面白からず 山田教授の生き方・考え方」,角川文庫,1999年
 山田教授は作中で経済的自由主義を批判するとともに,自由と個人利害とを結びつけて現実に調和する自由を主張しています.人間はホモ・エコノミクスとして完全に合理的に行動するわけではない.人間の様々な価値観や意見を考慮すべきである,と. 
 ジョージ・ソロス,山田雄三教授はともに現実をありのままに直視することの重要性を説いています.そのためには深い人間理解が必要でしょう.山田教授が私家版として「謡曲に見る人間研究」という本を出されていることはその証左でしょう.また,近年では行動経済学や実験経済学といった人間はホモ・エコノミクスではないとする経済学も徐々に発展しているようです.これらの新しい経済学を勉強してみたいと思います.そして,人間についてもっと深く理解できたらいいなと思います.

2020年8月11日火曜日

日本最大の自動車メーカーの未来はどうなる?

 本屋さんで見かけて興味を持ち購入しました.梶山三郎著「トヨトミの逆襲」です.愛知県のあの企業がモチーフなのかなと予想を立てながら本棚から手に取りました.そして,裏表紙のトヨトミ自動車の概要を見て予想は確信に変わりました.また作者の名前「梶山三郎」にも興味をそそられました.きっと城山三郎さんリスペクトなんだろうな,と.もっともこれは半分不正解で,どうやら名字の梶山は梶山季之さんから取ったようです.
 愛知県出身で城山三郎さんファンの私は,絶対に読まねばなるまい.そう思って購入しました.なお,この本は前作「トヨトミの野望」の続編に当たるようです.私は前作を読まずに本作を読みましたが十分に楽しめました.
 前作のテーマは自動車業界の厳しい状況と創業一族の功罪についてだったようです.本作でも自動車業界の厳しい状況がテーマなのは同じでしょう.むしろCASEやMaaSといった新しい概念が提唱され,他の業界との境界線がどんどん曖昧となった現在,状況はより厳しくなっているような気がします.
 本作は,そんな厳しい状況に置かれたトヨトミ自動車における,「組織」がもうひとつのテーマに思えます.日本一の営業利益を上げるトヨトミ自動車.業績も更に伸ばしており企業経営が上手にいっているように見えますが,中枢部では醜い権力闘争が起きていました.企業にしろ,戦国時代の大名にしろ,組織が大きくなると硬直化や内部の諍いが起こるのは古今東西同じようです.自動車業界の激しい変化に対応し生き残っていくために,主人公の社長・豊臣統一が奮闘する姿が描かれています.統一が大変なのは自社だけでなく,サプライヤーも含めた企業群全体のマネジメントをしなければならないことです.
 小説の終盤,統一が製品発表会において発して言葉が印象に残っています.

メーカーとサプライヤーは元請けと下請けではなく,真剣勝負をする関係です.私はそんな関係を築きたいのです.

 先日読んだ本の主人公・大原孫三郎は社員を労働者としてではなく仲間として扱い,協力して事業を拡大しようとしました.統一の言葉は,その企業と企業のバージョンのように聞こえます.これからは自律分散の時代と言われます.「100年に一度の大変革時代」を乗り切るためには,トヨトミ帝国として集中するのではなく,協力関係を保ちつつ各々が独立して活動する企業群になる必要があるでしょう.ただし言うは易く行うは難し,です.そのような関係となるには,帝国のトップの適切な舵取りが不可欠でしょう.今後モチーフとなった企業が,サプライヤーとの関係についてどんな方針・方策をとるのか大いに興味があります.
 本作の最後は,2022年のトヨトミ自動車の姿を描いて終わります.果たしてモチーフとなった企業は2年後どんな姿になっているのでしょうか.

梶山三郎,トヨトミの逆襲:小説・巨大自動車企業 ,小学館,2019年

2020年8月10日月曜日

「海と毒薬」から日本人と空気の関係を考える

遠藤周作:「海と毒薬」 

 この小説は太平洋戦争末期の日本陸軍と九州大学が起こした,捕虜を生体解剖するという悲惨な事件をモチーフにしたものです.この事件は,戦争中という異常な状態が引き起こしたのだと言えるのかもしれません.
 しかし,作者はこの事件が起きた理由を,日本人の罰は恐れるけれども罪は恐れないという習性に求めています.「赤信号,みんなで渡れば怖くない」という言葉があるように,日本人は個人の意思よりも全体の「空気」を優先することがあります.個人の罪の意識よりも、他人の眼や社会からの罰を恐れます.本作品での生体解剖を行う医師たちも組織の「空気」に拘束されてしまったといえるでしょう.この日本人の仲間内で醸成される「空気」について考察した本に山本七平さんの『「空気」の研究』があります.
 主人公の勝呂は上司に捕虜の生体解剖実験への協力を求められ,周りの「空気」と自分の良心の間で揺れ動き葛藤します.自分がもし勝呂の立場だったとしたら「空気」に流されずに自分の意思を貫くことができるだろうかと考えされます.

おすすめです.  
『「空気」の研究』とあわせていかがでしょうか.

山本七平,「空気の研究」,文春文庫,1983年 

 

2020年8月9日日曜日

初投稿

読書が好きな理系大学院生です.
特に,城山三郎さんの作品を愛読しています.

読んだ本の感想と書評を徒然なるままに書いていこうと思います.
城山さんの作品を中心に,経済,歴史小説や理系大学院生らしく理系っぽい本(?)まで幅広く書いていきたいです.


よろしくお願いします. 

丹沢山を登る

 先日神奈川県にある丹沢山に登りました.丹沢山地は東京からのアクセスがよいのが魅力的ですね.今回はオーソドックスに大倉から塔ノ岳を経由するルートを選びました.大倉までは 小田急電鉄小田原線の 渋沢駅からバスで15分程度です.小田急電鉄に乗っていると動きやすい服装で大きめのリュック...