本屋さんで見かけて興味を持ち購入しました.梶山三郎著「トヨトミの逆襲」です.愛知県のあの企業がモチーフなのかなと予想を立てながら本棚から手に取りました.そして,裏表紙のトヨトミ自動車の概要を見て予想は確信に変わりました.また作者の名前「梶山三郎」にも興味をそそられました.きっと城山三郎さんリスペクトなんだろうな,と.もっともこれは半分不正解で,どうやら名字の梶山は梶山季之さんから取ったようです.
愛知県出身で城山三郎さんファンの私は,絶対に読まねばなるまい.そう思って購入しました.なお,この本は前作「トヨトミの野望」の続編に当たるようです.私は前作を読まずに本作を読みましたが十分に楽しめました.
前作のテーマは自動車業界の厳しい状況と創業一族の功罪についてだったようです.本作でも自動車業界の厳しい状況がテーマなのは同じでしょう.むしろCASEやMaaSといった新しい概念が提唱され,他の業界との境界線がどんどん曖昧となった現在,状況はより厳しくなっているような気がします.
本作は,そんな厳しい状況に置かれたトヨトミ自動車における,「組織」がもうひとつのテーマに思えます.日本一の営業利益を上げるトヨトミ自動車.業績も更に伸ばしており企業経営が上手にいっているように見えますが,中枢部では醜い権力闘争が起きていました.企業にしろ,戦国時代の大名にしろ,組織が大きくなると硬直化や内部の諍いが起こるのは古今東西同じようです.自動車業界の激しい変化に対応し生き残っていくために,主人公の社長・豊臣統一が奮闘する姿が描かれています.統一が大変なのは自社だけでなく,サプライヤーも含めた企業群全体のマネジメントをしなければならないことです.
小説の終盤,統一が製品発表会において発して言葉が印象に残っています.
メーカーとサプライヤーは元請けと下請けではなく,真剣勝負をする関係です.私はそんな関係を築きたいのです.
先日読んだ本の主人公・大原孫三郎は社員を労働者としてではなく仲間として扱い,協力して事業を拡大しようとしました.統一の言葉は,その企業と企業のバージョンのように聞こえます.これからは自律分散の時代と言われます.「100年に一度の大変革時代」を乗り切るためには,トヨトミ帝国として集中するのではなく,協力関係を保ちつつ各々が独立して活動する企業群になる必要があるでしょう.ただし言うは易く行うは難し,です.そのような関係となるには,帝国のトップの適切な舵取りが不可欠でしょう.今後モチーフとなった企業が,サプライヤーとの関係についてどんな方針・方策をとるのか大いに興味があります.
本作の最後は,2022年のトヨトミ自動車の姿を描いて終わります.果たしてモチーフとなった企業は2年後どんな姿になっているのでしょうか.
梶山三郎,トヨトミの逆襲:小説・巨大自動車企業 ,小学館,2019年
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