2020年11月23日月曜日
丹沢山を登る
2020年11月21日土曜日
イトーキの業績分析
イトーキの株価の推移
<売上高と純利益>
まずは売上高と純利益です.下にイトーキの売上高と純利益の推移を示します.なお2020年度の値は会社発表の予測値を用いています.売上高に関しては今年度こそ新型コロナウイルスの影響のため前年比4.2%減となっていますが,2011年度以降2019年度まで比較的順調に上昇していたことがわかります.一方,純利益は売上高が順調に上昇しているにも関わらず2015年度をピークに大きく減少しています.自己資本利益率(ROE)は一桁%台であり,売上が上がっているものの利益が伸びていないのが株価低迷の原因だと考えられます.では,なぜイトーキの純利益は減少しているのでしょうか.

イトーキの売上高と純利益の推移
<販売費および一般管理費の増大>
下に売上総利益と販売費および一般管理費と推移を示します.売上総利益は売上高の上昇と連動して順調に伸びているように見えます.売上原価が増大したということはなさそうです.気になるのが2016年度以降の急激な販売費および一般管理費の増大です.売上総利益の増大を大きく上回るペースで増えています.これが純利益の減少の大きな理由と言えそうです.
<販売費および一般管理費の内訳は?>
2017年度の決算説明会の資料によると物流費や人件費の増加を販売管理費の増加の原因として挙げています.有価証券報告書によると2019年度の販売費および一般管理費は407.76億円です.そのうち従業員の給与や賞与が約170億円で,2016年度の約150億円と比べて20億円増加しています.従業員の給与と研究開発費以外の販売管理費の残り200億円に関しては内訳の記載がありませんが,ここに物流費やオフィスの賃料などが含まれており,物流費の増加によって販管費が増大している可能性があります.また,2018年秋に東京の日本橋に新本社オフィスを設置していますが,これによって賃料が増加している可能性もあります.
<まとめ> 今回はイトーキの業績分析を行いました.売上高は増加しているものの販売費および一般管理費の増大によって利益率が減少しているため株価が低迷していることがわかりました.新型コロナウイルスの流行によりテレワークを採用する企業が増え今後の業績は不透明ですが,2020年度の売上高予想を見る限りは劇的に減少するわけではなさそうです.販売管理費をうまく抑制すれば増益となり株価上昇の可能性もあるのではと感じました.今後に注目していきたいと思います.
<まとめ>
2020年9月19日土曜日
理想と現実の狭間を突き進む ー大原孫三郎について
先日、倉敷に行ってきました。
倉敷にある大原美術館において城山三郎さんの作品が販売されていたので買いました。大原孫三郎を扱った「わしの眼は十年先が見える」です。
大原孫三郎は、大地主であり倉敷紡績(クラボウ)の設立者である孝四郎の息子として生まれました。少年・青年期の孫三郎は「バカ息子」という言葉がぴったりです。勉学のため上京したものの、孫三郎は1万5千円(現在の金額で1億円)もの借金を抱えてしまい、倉敷に連れ戻されてしまいます。後年、孫三郎は社会事業にお金を大量に注ぎ込みますが、お金の使い方が大胆なのは若い頃からのようです。孫三郎は父の跡を引き継ぐと、経営者としての手腕を発揮します。倉敷紡績を発展させるだけでなく、倉敷絹織(クラレ)や中国水力電気会社(現在の中国電力)を設立します。また、小さな銀行を合併させて中国合同銀行(現在の中国銀行)を作り、その頭取となります。まさに岡山・倉敷の経済界の中心人物だったと言えるでしょう。しかし、孫三郎は経営者としてよりも、社会や文化への貢献が有名です。倉敷紡績の女工の待遇の大幅な改善。孤児院を設立し、孤児や貧困にあえぐ子供を救おうと奮闘する石井十次への莫大な資金の支援。農業研究所・社会問題研究所・労働科学研究所の3つの科学研究所の設立。倉敷紡績の社員だけでなく、一般市民も利用可能な病院の設立、そして大原美術館の開館など、孫三郎の社会貢献は列挙するとキリがありません。孫三郎は、経営者としての会社の利益という「現実」とよりよい社会にするという「理想」、この狭間を突き進んでいった人間といえるでしょう。
なぜ孫三郎は経営者として利益を追求するだけでなく、社会貢献にも力を注いだのでしょうか。筆者である城山さんはその理由を彼の少年・青年期に求めています。少年時代の孫三郎は大地主の息子ということで嫉妬や羨望の対象でした。当時は今よりもより身分による区別が色濃く残っていたというのもあるでしょう。孫三郎には心からの友人が少なかったようです。また、東京遊学中にあれほどおごってあげた友人たちは孫三郎が倉敷に戻るとパタリと音信が途絶えたのでした。このような経験から彼は「本当の友人」や「仲間」を切望していました。そのため、女工さんや小作人と「資本家」と「労働者」して付き合うのではなく、対等な仲間でありたいと考えていたと思います。また。石井十次や画家の児島虎次郎といった孫三郎が理想に共感した人物には協力を惜しみませんでした。作中では、主人公の孫三郎と理想に燃える石井や児島、そしてもう一人、おそらく作者の創作であると思われる砂田の存在が興味深いです。砂田は孫三郎と同じ資産家の息子であり、早く跡継ぎを作り自身は一日でも早く楽隠居になることを目指している人間として登場します。石井や児島と砂田。これらの人物との対比によって、孫三郎がもがき揺れ動きながらも、その間を懸命に進んでいく姿がはっきり浮かび上がってきます。このあたりの人物の描き方はさすがだなと思います。ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
大原孫三郎について、興味を持ったのでもう一冊読みました。それが、兼田麗子著「「大原孫三郎ー善意と戦略の経営者」です。彼女はこの作品以外にも複数の大原孫三郎についての作品を書いており、まさに大原孫三郎の専門家と言えるでしょう。同時代の代表的な資本家である渋沢栄一と武藤山治との比較はとても興味深いです。こちらの本もおすすめです。
2020年9月17日木曜日
「沈黙」の創作秘話
遠藤周作さんの作品のなかで最も有名と思われる名作「沈黙」。この沈黙の創作秘話や文学と宗教の関係についての講演録をまとめたのが「人生の踏み絵」です。一番面白かったのは,「沈黙」の創作秘話について語られている「人生にも踏絵があるのだから ー『沈黙』が出来るまで」です。以下の文章が印象に残りました。
戦後の人たちも今の人たちもでも,やっぱり多かれ少なかれ,人生の踏絵というものを持って生きてきたはずです.われわれ人間は自分の踏絵を踏んでいかないと生きていけない場合があるんです.
今の日本人は理想や憧れの生き方を政治や社会情勢のために押し殺して生きていかないといけない、ということは殆ど無いでしょう。ただ、現代日本人も「自分の踏絵」を持って生きているというのは賛同できるのではないでしょうか。
ここで「踏絵」というのは、ただの「挫折」とは異なります。「踏絵」を踏まないとキリシタンと認定され、踏まなかった本人だけではなく家族まで罰せられる可能性があります。少なくとも周りの非キリシタンから家族は白い目で見られるでしょう。「踏絵」を踏まずに信念を貫くという行為は、他人を傷つける恐れがあるのです。「踏絵」を踏んでしまう人は弱い人間かもしれませんが、同時に周囲を傷つけたくない人ということができます。おそらく私は目の前に踏絵を差し出されたら踏んでしまう弱い、平凡な人間でしょう。「沈黙」はそんな弱い私のような人間にフォーカスして描かれた小説なのだ、と思うと「沈黙」をもう一度読み返したくなりました。
また、主に西洋のキリスト教文学について語った「文学と宗教の谷間から」もとてもおもしろかったです。特にモーリアック「テレーズ・デスケルウ」についての文章がとても印象に残っています。遠藤さんは、この小説のおもしろさを人間の混沌とした心理を描いたことであり、ある行動をした心理を一つの心理で片付けていないことだとしています。そして、遠藤さんは小説「海と毒薬」はこの作品の影響を受けたものだと語っています。確かに読み返してみると、作品の冒頭で戦後の勝呂が独り言のようにつぶやいた言葉などには「テレーズ・デスケルウ」の影響を感じることができます。
この本を読むことによって、「沈黙」などの名作をより理解できるとともに、小説の裏にある遠藤さんの人生観や人間観が少しわかる気がしてとてもおもしろかったです。遠藤作品をよりおいしく味わうためのスパイスのような存在でありながら、ひとつの料理としても十分に味わえる、そんな一冊です。
2020年9月16日水曜日
将棋の振り返り(向かい飛車 vs 飯島流引き角戦法)
将棋の振り返りをしていきます。今回は対飯島流引き角戦法です。飯島流引き角戦法は飯島栄治七段(段位は2020年9月現在)が編み出した戦法で、飯島七段はこの戦法で升田幸三賞を受賞されています。私は大学生になって将棋熱が再燃し現在に至っていますが、私の将棋熱に火をつけた友人のエース戦法がこの飯島流引き角戦法でした。角道を開けてくれないので私の得意な△3三角型角交換四間飛車が使えないため、最も苦手意識のある戦法かもしれません。それでは棋譜を振り返っていきましょう。私が先手番です。
得意の角交換四間飛車に持ち込もうと角道を開けたまま駒組みを進めました。なかなか相手が角道開けてこないなと思っていたら△5三角でようやく飯島流引き角戦法だと気づきました。久しくやられていなかったので気づくのが遅れてしまいました。とりあえず向かい飛車に振り直して25手目で▲5五歩と仕掛けていきました。相手の右銀が前にくる前に一歩持っておこうという魂胆です。



2020年9月15日火曜日
【AtCoder解説】動的計画法を使わずにABC178のD - Redistributionを解いてみる
久しぶりにAtCoderに参加しました。D問題の公式解説が動的計画法を使っていて難しかったので、自分なりの解法をメモしておきたいと思います。用いるのは高校で習う数学Aの知識です。まずは問題文のおさらいです。
問題文:整数 S が与えられます。 すべての項が 3 以上の整数で、その総和が S であるような数列がいくつあるか求めてください。ただし、答えは非常に大きくなる可能性があるので、 109+7 で割った余りを出力してください。
制約 :1 ≤ S ≤ 2000, 入力はすべて整数
例として、 S = 11 のときを考えてみましょう。まず数列の最大の項数を考えます。すべての項が3以上という条件から11 ÷ 3 = 3 ・・・ 2 で最大の項数は3であることがわかります。それでは項数が3のとき、S = 11となる数列はいくつ存在するでしょうか。ここでは、玉と箱を用いて考えます。今回はS = 11かつ項数3なので玉を11個、箱を3つ用意しました。箱の中に入っている玉の数が数列の各項に対応します。まず箱には少なくとも3つの玉が入っている必要があるので、あらかじめ3つずつ玉を入れておきます。すると、残った2つの玉を3つの箱に振り分ける方法は何通りあるか、という問題に帰着します。たとえば前2つの箱に1個ずつ入れると、これは数列{4, 4, 3}に対応しています。数列{4, 4, 3}は確かにS = 11かつ項数3の数列ですね。

- 入力Sに対して最大の箱の数を求める。
- 最大の箱の数をXとする。箱の数が1からXのときそれぞれに対して以下の計算を行う。
・あらかじめ箱に入れておく玉を入力Sからひく。
・残りの玉の箱への入れ方が何通りあるか求める。 - 箱の数が1のときからXのときまでの残りの玉の箱への入れ方を合計する。答えを109+7 で割る。
from math import factorial
S = int(input())
ans = 0
for i in range(S // 3):
box = i + 1 # 箱の数
ball = S - 3 * box # あらかじめ箱に3こずつ入れたあとの残りの玉の数
# 箱への入れ方が何通りあるか計算。
# 仕切りの数は box - 1 であることに注意
ans_ = factorial(ball + box - 1) // (factorial(ball) * factorial(box - 1))
ans += ans_
print(ans % (10 ** 9 + 7))久しぶりのAtCoder、とても楽しかったです。次も頑張りたいなと思います。
2020年9月14日月曜日
名和長年公の戦没遺跡
京都市内を当てもなくぶらぶらしていると、なにやら大きいモニュメントが。近づいてみると、名和長年公の戦没遺跡でした。名和長年は南北朝時代の武将です。「名和長年」という名前を久しぶりに見ました。そしてたちまち小学校時代にタイムスリップして懐かしい気持ちになりました。
私は小学生のとき歴史に強い興味を持ちました。荒俣宏さんの「21世紀こども人物館」を隅から隅まで読みました。今でもこの本は家にあるのですが、手垢で真っ黒です。歴史のなかでも男の子らしく(?)戦いのある時代が好きでした。一番好きなのが戦国時代で、その次に好きだったのが名和長年が活躍した鎌倉時代末期から室町幕府成立までの時代でした。この時代に興味を持ったきっかけが「太平記」です。ただし「太平記」といっても、小学生でもわかるように平易な文章に書き直したものだったと思います。名和長年は隠岐から脱出した後醍醐天皇と合流し、鎌倉幕府を滅ぼす原動力となりました。その後、後醍醐天皇の政治(建武の新政)では役人を務め、足利尊氏が後醍醐天皇のもとを離れると楠木正成や新田義貞と協力して尊氏と戦いますが、1336年にこの地で討ち死にしたようです。
「平家物語」では平氏は政権奪取後おごりたかぶっていた存在として描かれているので、源氏にやられてもしょうがないかなと思っていました。しかし、「太平記」において後醍醐天皇とその周りの公家はともかく、名和長年ら政権側の武将たちは隆盛を誇るような記述はなく役人として忠実に働いていたイメージです(小学生の頃の記憶なので間違っているかもしれません)。尊氏の勢力が徐々に強大になっていくのを感じて南朝方の武将を応援しながら「太平記」を読んでいましたが、私の応援むなしく名和長年や新田義貞、楠木正成は敗戦し死んでいくことになります。それらの場面では子供ながら非常にもの悲しい気持ちになったことを記念碑を見てしみじみと思い出しました。
「太平記」、もう一度読んでみようかな。
2020年9月13日日曜日
将棋の振り返り(嬉野流 vs 向かい飛車△3二金型)
将棋の振り返りをしていきたいと思います。今回は対嬉野流です。嬉野流は奇襲戦法の一種という認識でしたが、アマチュア間ではすっかり市民権を得ましたね。プロ棋士の採用はほとんどありませんが、最近牧野光則五段が王将戦予選、対西川六段戦で使っています。
私は嬉野流に対しては△3二金型(今回は先手なので▲7八金)の向かい飛車で対抗するようにしています。△3二金型の向かい飛車にしておけば少なくとも作戦負けをすることはないというイメージです。では振り返りをしていきましょう。
ほとんど定跡通りの進行から▲6五歩と突いて銀を退却させたあと(図1)、手が広く迷いました。本譜は「位を取ったら位の確保」で▲6六銀を選択しました(図2)。ほかにも▲5七角や▲4六歩、銀冠を目指す▲2六歩などが候補にありました。どの手を選択しても一局だったようです。
図2から飛車を5筋に振り直し揺さぶりをかけていきました。後手が△5二飛車としてきたのを見て元気よく▲8五桂と跳ね出しました(図3)。銀当たりになっているうえに一歩得をして先手十分です。ただし、そのあとの△7五歩を手拍子で同歩と取ってしまったのが失敗でした。8筋に追いやった銀をさばかせてしまい、こちらの桂馬が遊んでしまっています。また後手が同角としたとき次に△4八銀があるのが痛かったです(図4)。△7五歩に対して▲6七金と金を進出させておいて▲7九飛としておけば先手が優勢だったようです(参考図1)。
2020年9月12日土曜日
双ヶ丘から仁和寺を眺める
先日仁和寺に行ってきました。仁和寺は去年の秋に将棋の竜王戦が行われてからずっと行きたいと思っていた場所でした。御殿に入ると竜王戦で使われた将棋盤や対局者の揮毫した扇子などの展示がありました。一将棋ファンとしてとても嬉しくなりました。残念ながらポスターが反射して上手に撮れていませんが・・・。
2020年9月11日金曜日
将棋の振り返り(角交換四間飛車△3三角型 vs エルモ囲い)
古森先生の「角交換四間飛車の新常識 最強△3三角型」を読んでから、△3三角型の角交換四間飛車が私のエース戦法となりました。今回は△3三角型の角交換四間飛車に対して居飛車が角を交換せずエルモ囲いに組んだ将棋の振り返りをします。△3三角型の角交換四間飛車(図1)に対して先手が▲4六歩からエルモ囲い+4八金2八飛車の形を作ってきました。私は飛車を2筋に振り直し、△3二金型向かい飛車にしました(図2)。図2の局面から△4二角、△3三桂馬、△2一飛車とできれば向かい飛車の理想型だと思いますが△4二角に対して▲4五歩とされる変化が怖かったためあきらめました(将棋ソフトによる検討だと▲4五歩△同歩▲8八角成△同金で互角のようです。しかし金がそっぽに行くので人間的にはやりにくいですよね。角を持っても先手陣には角を打つ隙がないのもつらいです)。
本譜は図2から△2四歩と仕掛けていきましたが、これは無理筋だったようです。▲同歩△同角▲4五歩に△3三角(図3)から飛車交換をして▲4四歩にじっと△5二銀と引きました。この局面は4筋に拠点を作られたものの手順に王様を固めることができ、△2八飛車からの攻めもあるため互角かなと思っていました。しかし実際は▲2三歩で先手優勢だったようです(参考図1)。▲2三歩に対して△3一角は▲4三歩成から▲1一角成があります。△同金には▲4二飛車が厳しいです。
2020年9月10日木曜日
将棋ウォーズ(相振り飛車:三間飛車+矢倉 vs 向かい飛車+金無双)
将棋ウォーズの振り返りをしていきます。先手三間飛車 vs 後手向かい飛車の相振り飛車となりました。私が後手番です。先手は矢倉(片矢倉)、私は金無双を選択しました。
2020年8月12日水曜日
経済と人間の関係について
最近読んだジョージ・ソロスの本が面白かったので紹介したいと思います.10年ほど前に発表された「ソロスは警告する」という本です.
ジョージ・ソロス,「ソロスは警告する 超バブル崩壊=悪夢のシナリオ」,講談社,2008年
ソロスの主張は,「市場のさまざまな変数(価格など)は均衡値に向かって収斂する傾向がある」という現在主流の経済学(新古典派経済学)の考え方は偽りであるということです.これは現在主流の経済学では人間は常に合理的な判断をする(ホモ・エコノミクス)と仮定されていますが,実際は必ずしもそうではないからです.ソロスは,人間はホモ・エコノミクスであるという仮定では排除されている,人間の未来への期待やに基づく現実との誤差(バイアス)や現実の理解不足を考慮すべきと主張します.ソロスが投資家としてこれほどの成功を収めたのは,難解な金融工学を駆使したからではありません.彼が「人間理解の名人」だったからです.金融市場の動きを見て,他の投資家がどう動くかを把握する達人です.そして,現実と一般の投資家の現実理解との誤差が大きくなったところで自らの信念に従って投資を行い,市場を出し抜き巨万の富を得ました.
さて,市場価格などは均衡値に向かって収束するという考え方に対して,経済学者の立場から批判している方がいます.私の一番好きな作家である城山三郎さんの恩師である,山田雄三教授です.
城山三郎,「花失せては面白からず 山田教授の生き方・考え方」,角川文庫,1999年山田教授は作中で経済的自由主義を批判するとともに,自由と個人利害とを結びつけて現実に調和する自由を主張しています.人間はホモ・エコノミクスとして完全に合理的に行動するわけではない.人間の様々な価値観や意見を考慮すべきである,と.
ジョージ・ソロス,山田雄三教授はともに現実をありのままに直視することの重要性を説いています.そのためには深い人間理解が必要でしょう.山田教授が私家版として「謡曲に見る人間研究」という本を出されていることはその証左でしょう.また,近年では行動経済学や実験経済学といった人間はホモ・エコノミクスではないとする経済学も徐々に発展しているようです.これらの新しい経済学を勉強してみたいと思います.そして,人間についてもっと深く理解できたらいいなと思います.
2020年8月11日火曜日
日本最大の自動車メーカーの未来はどうなる?
本屋さんで見かけて興味を持ち購入しました.梶山三郎著「トヨトミの逆襲」です.愛知県のあの企業がモチーフなのかなと予想を立てながら本棚から手に取りました.そして,裏表紙のトヨトミ自動車の概要を見て予想は確信に変わりました.また作者の名前「梶山三郎」にも興味をそそられました.きっと城山三郎さんリスペクトなんだろうな,と.もっともこれは半分不正解で,どうやら名字の梶山は梶山季之さんから取ったようです.
愛知県出身で城山三郎さんファンの私は,絶対に読まねばなるまい.そう思って購入しました.なお,この本は前作「トヨトミの野望」の続編に当たるようです.私は前作を読まずに本作を読みましたが十分に楽しめました.
前作のテーマは自動車業界の厳しい状況と創業一族の功罪についてだったようです.本作でも自動車業界の厳しい状況がテーマなのは同じでしょう.むしろCASEやMaaSといった新しい概念が提唱され,他の業界との境界線がどんどん曖昧となった現在,状況はより厳しくなっているような気がします.
本作は,そんな厳しい状況に置かれたトヨトミ自動車における,「組織」がもうひとつのテーマに思えます.日本一の営業利益を上げるトヨトミ自動車.業績も更に伸ばしており企業経営が上手にいっているように見えますが,中枢部では醜い権力闘争が起きていました.企業にしろ,戦国時代の大名にしろ,組織が大きくなると硬直化や内部の諍いが起こるのは古今東西同じようです.自動車業界の激しい変化に対応し生き残っていくために,主人公の社長・豊臣統一が奮闘する姿が描かれています.統一が大変なのは自社だけでなく,サプライヤーも含めた企業群全体のマネジメントをしなければならないことです.
小説の終盤,統一が製品発表会において発して言葉が印象に残っています.
メーカーとサプライヤーは元請けと下請けではなく,真剣勝負をする関係です.私はそんな関係を築きたいのです.
先日読んだ本の主人公・大原孫三郎は社員を労働者としてではなく仲間として扱い,協力して事業を拡大しようとしました.統一の言葉は,その企業と企業のバージョンのように聞こえます.これからは自律分散の時代と言われます.「100年に一度の大変革時代」を乗り切るためには,トヨトミ帝国として集中するのではなく,協力関係を保ちつつ各々が独立して活動する企業群になる必要があるでしょう.ただし言うは易く行うは難し,です.そのような関係となるには,帝国のトップの適切な舵取りが不可欠でしょう.今後モチーフとなった企業が,サプライヤーとの関係についてどんな方針・方策をとるのか大いに興味があります.
本作の最後は,2022年のトヨトミ自動車の姿を描いて終わります.果たしてモチーフとなった企業は2年後どんな姿になっているのでしょうか.
梶山三郎,トヨトミの逆襲:小説・巨大自動車企業 ,小学館,2019年
2020年8月10日月曜日
「海と毒薬」から日本人と空気の関係を考える
遠藤周作:「海と毒薬」
2020年8月9日日曜日
初投稿
読書が好きな理系大学院生です.
特に,城山三郎さんの作品を愛読しています.
読んだ本の感想と書評を徒然なるままに書いていこうと思います.
城山さんの作品を中心に,経済,歴史小説や理系大学院生らしく理系っぽい本(?)まで幅広く書いていきたいです.
よろしくお願いします.
丹沢山を登る
先日神奈川県にある丹沢山に登りました.丹沢山地は東京からのアクセスがよいのが魅力的ですね.今回はオーソドックスに大倉から塔ノ岳を経由するルートを選びました.大倉までは 小田急電鉄小田原線の 渋沢駅からバスで15分程度です.小田急電鉄に乗っていると動きやすい服装で大きめのリュック...
-
先日神奈川県にある丹沢山に登りました.丹沢山地は東京からのアクセスがよいのが魅力的ですね.今回はオーソドックスに大倉から塔ノ岳を経由するルートを選びました.大倉までは 小田急電鉄小田原線の 渋沢駅からバスで15分程度です.小田急電鉄に乗っていると動きやすい服装で大きめのリュック...
-
将棋の振り返りをしていきたいと思います。今回は対嬉野流です。嬉野流は奇襲戦法の一種という認識でしたが、アマチュア間ではすっかり市民権を得ましたね。プロ棋士の採用はほとんどありませんが、最近牧野光則五段が王将戦予選、対西川六段戦で使っています。 私は嬉野流に対しては△3二金型...
-
京都市内を当てもなくぶらぶらしていると、なにやら大きいモニュメントが。近づいてみると、名和長年公の戦没遺跡でした。名和長年は南北朝時代の武将です。「名和長年」という名前を久しぶりに見ました。そしてたちまち小学校時代にタイムスリップして懐かしい気持ちになりました。 私は小学生の...

































